医療機関・検査分析機関の皆さまへ

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ヒアリング調査事例 : 出生前検査認証医療施設の実際

  • ◆「出生前検査に関する支援体制構築のための研究」研究概要・事例集 参照:URL
  • https://www.showa-obgy.jp/dcms_media/other/事例集%E3%80%80報告書%E3%80%80Final%20Ver..pdf

(ヒアリング調査:2022年9月~出生前検査認証制度開始後の調査)

1. 妊婦に寄り添うための認証施設の工夫

  • 出生前検査を受検した方へのアンケート結果(2021年10月)から、認証施設で相談したかった、あるいは受検したかったが、それを困難にしているいくつかの状況が把握されました。
  • そこで、認証施設へのヒアリング調査(2022年9月~)を行い、認証施設が行っているさまざまな工夫を聞き取りしたので、そのいくつかを紹介します。
  • なお、Web版では認証施設名は匿名としました。
カップルのニーズと疑問 認証施設で工夫している好事例
認証施設で検査を受けるほうが良い理由を聞かれた。 遺伝関連の専門資格をもった担当者が、検査前後に丁寧な遺伝カウンセリングを実施していること、また、全国共通の説明用チラシがあり、家に帰ってからも内容を振り返ることができるよう工夫している点を伝えている。
忙しくて診療時間内に受診できないといわれる。 最近は働く女性が増えているので、土曜日の受診も可能にしたところ、実際に重宝がられている。また、説明と採血を同日に実施することで、ご夫婦の負担軽減になるよう工夫している。
認証施設はアクセスが悪く行きづらいといわれる。 遠方で来院できない時などは、オンライン診療や、もっと気軽にテレビ電話などを活用し、支払いを後払いにするなど工夫をしている。ただ、結果が陽性の場合は対面でお話ししている。
夫婦で受診するのは大変だといわれる。 来院が難しい妊婦のパートナーとは、テレビ電話を通して妊婦と同時に説明を聴いてもらうようにしたり、そもそも夫婦での来談は“推奨”として絶対条件にはしないようにすることで、来院しやすい工夫をしている。
認証施設の方が検査対象となる疾患が少ないのはなぜかと聞かれた。 検査の対象疾患は精度管理がきちんとなされているものに限られている点を伝えている。また、性別や微細欠失・重複疾患についてはこれから検査精度が確立していくものと考えられる点も情報提供している。

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2. 認証施設だからできる連携

  • 認証施設の専門医が出生前検査に対応することの良い点として、同じ施設内での他科の専門医の紹介をしていることや、施設外の支援者の紹介をしていることが挙げられました。
カップルのニーズと疑問 認証施設で工夫している好事例
自分たちに育てていけるか心配だといわれた 陽性が出た場合には、院内や連携可能な小児科医との面談時間を設けている。実際に出生した子に対応している医師からの話を聞いてから意思決定することが可能であることを伝えている。
実際はどんな暮らしぶりなのか気になると質問された ピアカウンセリングとして、同じ病気をもつ方とその家族と対面して実際の生活について聞くことができるように工夫している。認定遺伝カウンセラーが同席することもできるし、個別に連絡を取ってもらうことも可能としている。
意思決定前に直接話を聞くのは気が引けるといわれた 患者会が作成している冊子の用意があり、冊子には実際に病気のある子を育てている人の話や、写真展の紹介なども記載してあり、重宝している。
もっと気軽に支援者の情報を得たいとの要望があった 「親子の未来を支える会」のホームぺージやパンフレットを紹介している。妊娠を継続するかどうか悩んでいるときにも相談でき、陽性が出たときの最初の相談先としても提示するように工夫している。

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3. 中期中絶の対応と心のケアのための工夫

  • 陽性事例で妊娠継続した場合より中絶した場合の方が医療機関や行政機関でフォローが行われることが少ない傾向にあることがわかりました。
  • その中でも、中期中絶に対する「妊婦への対応と心のケア」を工夫している医療機関の事例を一部抜粋記載します。
カップルのニーズと疑問 認証施設で工夫している好事例
中絶を希望しても引き続き診てほしいといわれた 同一施設内で一貫して中絶の対応をする施設もあるが、信頼できる施設と連携して、必要時にスムーズに紹介できるような体制を整えている施設もあり、施設ごとに可能な対応をとれるよう工夫している。
中絶を決めたので赤ちゃんと会いたくないとの希望があった 処置前の超音波検査でも必要最低限の情報以外に見たいかどうか確認するだけでなく、分娩後にも対面したいかどうか希望を聞いて、それに沿って対応するよう工夫している。
中絶した後も不安であると訴えがあった 処置後にフォローを希望するかどうかは外来受診時や入院中に確認し、必要に応じて対面でのアフターフォローを実施している。その他、電話やメール、LINEを使った対応も整備するなど、複数の選択肢を設ける工夫をしている。
ただただ話を聞いてほしいといわれる 認定遺伝カウンセラーや助産師、臨床遺伝専門医が面談している。処置後1か月~3か月は身体的・精神的に負担が特に強くなることが想定されるため、外来予約や電話訪問など、できる限り連絡を取るように工夫している。
眠れない・突然涙があふれてくるとの訴えがあった 専門家による介入が必要であれば担当医から紹介するようにしている。事例によっては長期に継続的フォローを行うこともあり、女性だけでなく、周りの家族の心理的サポートも行うように心掛けている。

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4. 結果を踏まえた支援体制のための工夫

22週未満で出生前検査が陽性であった場合の業務を医療者はどう認識しているか

Q. 自身の業務としてどのように感じますか?

(医療者個人調査:2021年12月)

  • 99%は「職種として当然の業務」と考えていました。
  • 9割以上が職責として専門的な技能で対応することに「やりがい」や「学び」を感じていました。
  • 一方で、3割の医療者は「できれば避けたい業務」と考えていました。

22週未満で出生前検査が陽性であった場合の業務への医療者の葛藤

Q.自身の業務全体の中で葛藤を覚えますか?

Q.葛藤を覚える背景要因は?

(医療者個人調査:2021年12月)

  • 74%は業務の中で葛藤を覚える(精神的負担をもつ)と回答しました。
  • その理由としては、出生前検査陽性事例の診療や支援に要する時間の長さや回数の多さ、予定外・予約外診療になることもあること、意思決定がなされてから医療処置までの時間的制限などが挙げられました。

陽性事例への対応には、医療者が課題や葛藤を感じることも少なくありません。妊娠継続を決めた場合には、妊娠中の妊婦と胎児、分娩後の母児の医療面のフォローに加えて、養育サポート、社会福祉の利用などについても対応する必要があります。中には、医療機関(産婦人科・小児科)との連携だけでなく、行政機関との連携も行っている認証施設があります。

このように、出生前検査の結果を踏まえた支援体制は、産婦人科医や小児科医に加えて、遺伝専門職、助産師などの関与が必須であり、その職種の個人的負担も大きいことがわかっています。
そこで、調査結果からいくつかの認証施設の支援体制の工夫と現状を記載します。

カップルのニーズと疑問 認証施設で工夫している好事例
妊娠継続したいので羊水検査は受けたくないとの希望があった 妊娠の継続をすでに決めた方の場合、羊水検査をせずに妊娠継続し、分娩後に児の採血による染色体検査をすることで確定検査とすることができると説明している。
妊娠継続は決めたけどちゃんと育てられるか不安だといわれた 妊娠中から小児科医と養育に関する情報提供などかかわりをもち始めてもらっていたり、地域の保健師とも情報共有し、実生活でのサポートもスムーズに進めていけるように工夫している。
いつも同じ人に話を聞いてもらいたいとの希望があった 必ずスタッフ間で引継ぎは行っている。ただ、看護師や助産師、認定遺伝カウンセラーの人員不足もあり、異動や退職、時間的制約、個人的負担などを踏まえると、常に同じ担当者が対応するのが難しい現状があることを説明している。
妊娠継続するか迷っているのに小児科医の話を聞くのは申し訳ないといわれた 産科と小児科の垣根をなくすように心がけている。遺伝医療センター化することで複数の診療科が自然にかかわり合い、当たり前のようにつながれる環境の構築ができるように工夫している。
中絶で入院中にも不安が押し寄せてくるとの訴えがあった 中絶を決めた時点から、主に助産師によるグリーフケアを開始している。入院中は夜間であっても話をきちんと聞いてくれており、精神面での変動も、外来へ情報共有ができるように工夫している。

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5. 認証施設同士で共有したい悩ましい思い

本研究の「NIPT受検者の出生前検査に対する意識調査(2023年2月)」まとめから

  • 認証施設での受検者は、その検査施設を「認証施設であること」、「かかりつけ医からの勧め」、「遺伝カウンセリングがあること」などから選択していました。一方、非認証施設での受検者は、「アクセス」、「費用の安さ」、「検査対象疾患の種類の幅広さ」、「ネット予約」、「口コミ」などから選択していました。
  • NIPT検査で陰性以外の結果を得た場合、非認証施設の受検者では、検査後の説明が不十分で不安が強い傾向があり、確定検査の施設選択やその手続きに関する説明不足を感じる人や検査施設の選択を後悔する人が多い傾向にありました。
  • 検査前に遺伝カウンセリングが必要だと感じた人は、認証施設での受検者に多く、NIPTに一定の規制が必要だと考える人も認証施設受検者に多い傾向がありました。
  • 認証施設では、非認証施設での受検結果を持参した人が、不安を訴えたり、対応を求めたりした際の支援体制や、そもそもの受検者の検査施設の選択について悩ましい想いを抱く医療者が多い傾向にありました。

そこで、認証施設同士で共有したい出生前検査に関わる悩ましい思いについて掲載します。

カップルのニーズと疑問 認証施設で工夫している好事例
結果をどう解釈してよいかわからないと質問された 非認証施設で結果についての説明を受けておらず、「結果の見方がよくわからない」と言って認証施設に来院する人も少なくない。また、非認証施設で「大丈夫」と言われても不安が残る人がいるため、遺伝カウンセリングを実施して不安を傾聴するよう工夫している。
NIPTの結果だけで中絶したいとの希望があった NIPTの結果だけで中絶できないか聞いてくる人がいると困ることがあるが、NIPTは非確定検査であり、偽陽性の可能性があることを丁寧に繰り返し話すことで理解してもらえるよう努力している。
非認証施設との違いが知りたいと聞かれた “性別が知りたい”とか“なぜ認証施設はわかる情報が少ないのに高いのか”など疑問や訴えがあった場合には、施設の方針も含め丁寧に説明し継続的にフォローするようにしている。
想定外の結果が出てきたので説明してほしいといわれた 非認証施設で3つのトリソミー以外が陽性となって、認証施設へ確定検査を受けに来たため、マイクロアレイ検査を実施したところ、また別の意義不明の変化が認められたことがあった。形態異常もなかったため、非認証施設へ行かなければ何事もなく産まれてきたかもしれない子だった可能性があったため、夫婦には余計に不安を抱かせるだけで知る必要がない情報だったと思われ、複雑な感情を抱いたことがあった。
検査のことは知りたくなかったとの訴えがあった 現在は出生前検査の存在をどの人にも伝えることが必須になっているが、中には知らなければよかったという人もいるので難しい。知ったら知ったで受けるべきかどうか悩む人がいるのも事実だと思うので、情報提供のあり方についてはいろいろな考えがある分、悩ましく感じる。超音波検査前などは事前にどこまで聞きたいか確認書を渡す工夫をしている。

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令和2-4年度厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業)
「出生前検査に関する妊産婦等の意識調査や支援体制構築のための研究」研究報告
研究課題:「出生前検査に関する支援体制構築のための研究」

研究代表者:白土なほ子 昭和大学医学部産婦人科学講座・准教授
研究分担者:関沢明彦 昭和大学医学部産婦人科学講座・教授
奥山虎之 埼玉医科大学・ゲノム医療科・特任教授
左合治彦 国立成育医療研究センター・副院長
柘植あづみ 明治学院大学社会学部・教授
澤井英明 兵庫医科大学・産婦人科学講座・教授
菅野摂子 埼玉大学・ダイバーシティ推進センター・准教授
佐村 修 東京慈恵会医科大学・産婦人科学講座・教授
吉橋博史 東京都立小児総合医療センター・臨床遺伝科・部長
鈴森伸宏 名古屋市立大学・大学院医学研究科病院教授
山田崇弘 北海道大学・臨床遺伝子診療部・教授
山田重人 京都大学大学院・医学研究科・教授
田中慶子 慶應義塾大学・経済学部・特任准教授
清野仁美 兵庫医科大学・精神科神経科学講座・講師
和泉美希子 昭和大学病院臨床遺伝医療センター
坂本美和 昭和大学医学部産婦人科学講座・講師
宮上景子 昭和大学医学部産婦人科学講座・講師
石井達子 昭和大学病院臨床遺伝医療センター
池本 舞 昭和大学医学部産婦人科学講座・助教
水谷あかね 昭和大学医学部産婦人科学講座・助教
池袋 真 昭和大学医学部産婦人科学講座・特別研究生