NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)

NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)

NIPTを受けた10万人の妊婦さんの追跡調査

NIPTは新しい検査

NIPTは2010年に米国で開発されました。日本では2013年に日本医学会が実施施設を認定する最初の制度ができ、認定を受けた施設で臨床研究として行われるようになりました。臨床研究とは、研究に参加した施設がどこも同じように実施し、その結果を分析することです。

認定施設の大半が参加して「NIPTコンソーシアム」というグループが組織され、2013年から臨床研究が始まりました。このグループではNIPTが一般診療となったあともデータ収集を続け、2021年には10万件以上(101,218件)となりましたので、その集計結果をご紹介します。

研究の対象

・臨床研究で検査を受けた妊婦さんの平均年齢は38.4歳でした(2022年まで、医学的リスクがない限り35歳未満の人は認定施設でNIPTを受けられませんでした)。

・検査を受けた妊娠週数は平均13.1週でした。

検査を受けた理由

検査を受けた理由 6年間72,526件での集計データ 6年間72,526件での集計データ

出典 NIPTコンソーシアム

検査を受けた理由としては、高年齢の妊娠であることが94.3%と大多数を占めました。

その他の理由として、染色体の病気がある子どもを出産したことがあるので受けた人(出産既往のある人)が2.5%、超音波検査でトリソミーのある可能性が高いと言われた人が1.9%、母体血清マーカー検査でそう言われた人が0.5%、妊婦さん自身もしくはパートナーが染色体転座保因者の場合などが0.9%となっています。

約50人に1人が「陽性」と出た

検査を受けた理由別 陽性となった割合 約50人に1人が「陽性」と出た

8年間1,872件のデータ

2013年から2021年3月までの8年間にNIPTコンソーシアムで行われたNIPTの検査数は101,218件です。その中で陽性は1,825件でています(3種類の染色体トリソミーの合計)。
つまり、NIPTを受けて「陽性」と出る確率は全体で1.8%、約50人に1人という結果でした。「判定保留」は0.4%であり、残りの97.8%が「陰性」という結果を得ています。
陽性が出た人の中で最も多かったのはダウン症(21トリソミー)の1,100件で、次が18トリソミーの559件でした。

ただ、陽性率は検査を受けた理由によって違いがあります。高年齢妊娠が理由で受けた場合には1.5%とやや低くなる一方、出産既往のある場合には1.9%とわずかに上昇します。

母体血清マーカー検査の結果が心配だった場合の陽性率は、4.1%、何らかの超音波検査でトリソミーのある可能性が高いと言われた場合の陽性率は14.7%でした。

ダウン症が陽性と出た人の的中率は97.3% 偽陽性は2.7%

ダウン症陽性とでた妊婦さん1,100件のうち、981人が羊水検査などの確定的検査を受け、そのうち955人(97.3%)でダウン症であることが確定しました。しかし、残りの26人(2.7%)、つまり37人に1人程度は異常が見当たらず、その人たちが受け取った「陽性」は「偽陽性(間違いの陽性)」だったことがわかりました。

NIPTは精度が高いと言われますが、このように、偽陽性もある検査です。そのため確定的検査が必要といわれるわけです。偽陽性は、ダウン症以外の病気ではさらに多くなります。陽性と出て本当に病気があった率「陽性的中率」は18トリソミーでは417人中367人(88.0%)、13トリソミーでは138人中75人(54.3%)にとどまりました。

NIPT陽性だった人のその後(人)
全検査会社検査データ結果101,218例中の陽性例の集計
ダウン症 18トリソミー 13トリソミー 合計
陽性だった人 1,100 559 166 1,825
確定的検査(羊水検査など)に進んだ人 981 417 138 1,536
本当に病気があった人 955 367 75 1,397
陽性的中率 97.3% 88.0% 54.3% 91.0%
実際は病気がなかった人 26 50 63 139
※横にスワイプすると表全体を見ることができます。

確定的検査を受けなかった理由の大半は確定的検査の前に子宮内で赤ちゃんが亡くなったためでしたが、この段階で妊娠継続を決めて羊水検査に進まない方もいました。

診断が確定したあと

上の表で示されているようにNIPTでダウン症について陽性だった1,100人のうち羊水検査を受けた人は981人で、本当に病気があった人は955人でした。
しかし、なかには流産後の絨毛で染色体検査をして確定した方や妊娠継続(分娩)した後に確定検査した人などもいます。そういった方達を加えると最終的にダウン症であることが確定した人の数は下の表に示すように1,034人でした。そして、そのうち妊娠継続を選択された方が38人、子宮内で赤ちゃんが亡くなってしまった方が97人、妊娠継続をあきらめた方が899人でした。あきらめた方が多い背景には、妊娠継続を希望する方ははじめからNIPTを受けない傾向があるためと思われます。
3つの染色体トリソミー全体では1,261人(77.6%)が妊娠継続をあきらめる選択をしたことになります。

確定的検査を受け、病気があることが確定した人のその後
全検査会社検査データ結果101,218例中の陽性例の集計
ダウン症 18トリソミー 13トリソミー 合計
病気が確定した人1 1,034 490 100 1,624
妊娠を継続した人 38 26 4 68
子宮内胎児死亡2 97 167 31 295
妊娠を中断した人 899 297 65 1,261
妊娠中断率3 86.9% 60.6% 65.0% 77.6%
(2021年8月現在) ※横にスワイプすると表全体を見ることができます。

*1 NIPTが陽性だった人から偽陽性だった人、研究対象から途中ではずれた人を除いた人数*2 妊娠継続希望するも子宮内胎児死亡となった方を含む*3 妊娠中断率=妊娠を中断した人÷病気が確定した人

陰性だったのに、実際にはトリソミーがあった赤ちゃんは1万分の1

NIPTを受検して陰性の結果となった妊婦さんの追跡調査も行われています。6年間に検査を行った72,525件中58,893件について、分娩後の経過を含めた赤ちゃんの様子を集計しました。
その結果によると、ダウン症と18トリソミーにそれぞれ3件の「偽陰性(間違いの陰性)」を認めました。NIPTは、陰性でも3種類の染色体トリソミーを100%否定できるわけではなく、10,000人に1人程度ですが偽陰性も起こります。

陰性だった赤ちゃんのうち、4%にはほかの病気があった

NIPT陰性の結果を得て、そして本当にトリソミーがなかった赤ちゃんも、その後に、ほかの病気がわかることがあります。

NIPTが「陰性」だった人の追跡調査

72,525件の検査で陰性であった症例の一部 58,893例の追跡調査結果
(2013年4月~2019年3月 6年間の検査についての報告)
NIPT
table

からだのつくりに表れる病気、子宮内胎児死亡、妊娠中断となった赤ちゃん、そして偽陰性だった赤ちゃん6名の人数を合計すると2,265人です。NIPTで3種類のトリソミーがわかった赤ちゃんの人数より、だいぶ多くなります。

 このNIPTの研究では平均38.4歳の妊婦さんが受検していたことを考えると、これは、この年代の女性が妊娠した場合、NIPTで陽性と出る確率1.8%を合わせて考えると、赤ちゃんのからだのつくりに表れる病気や途中の胎児死亡、子宮内感染など予想していないことが全体の6%程度に起こることを示すデータともいえます。

妊娠中にはさまざまなことが起こり、その一部が赤ちゃんの染色体トリソミーであるといえるでしょう。

確率を見ていると少し心配になってしまうかもしれません。でも見方を変えると、これは、高年齢で妊娠された方も94%は病気がない赤ちゃんを授かっていることを示すデータともいえます。